総合優勝 白妙 吉見 勲
紀州蘭友の会賞 清澄 平崎 清志
白花優勝 白妙 中西 昭彦
桃花優勝 桃里 又川 金仁
紅花優勝 室戸錦 野口 眞人
青々花優勝 青波 宮崎 満
更紗優勝 黎山 吉見 勲
青花優勝 小雪 吉見 勲
文人優勝 無銘 岩本 孝之
チャボ優勝 梅里 渋谷 博
早花会優勝 貴娘 小杉 裕通
晩花会優勝 豊雪 岡崎 晴海
大 蛇（おろち）
中西 昭彦
私の蘭栽培や渓流釣もこの一年一段と出世したようで、女房をはじめ家族や知り合いから「きちがい」の称号を貰いながら、相も変わらず蘭友との蘭談議や、揖保川や鳥取県の千代川に釣行しております。川筋の様子なら地元の人より詳しくなりました。蘭キチや渓流沿いの話題から今回は大蛇（おろち）の話をして見たいと思います。岩上神社の大蛇、兵庫県宍粟市山崎町の蔦沢を十四～十五キロ北に上った、人里から少し離れた山中に、鬱蒼とした大木に囲まれた岩上神社があります。夏の土用の丑の日にお祭りがあるという、五穀豊穣を祝う一般の祭りとは少々趣を異にした神社です。御神体は大岩で、周りには幾つもの岩石と大木が存在します。「満願成就」「無病息災」の神として多くの人々から信仰され、諸願立される人々は後を絶たないとあります。今でも結構な賑わいだそうですが、かっては（三十～四十年前）今より何倍も華やかで、身動きできなくなる程大勢の人出があったそうです。当時、山崎町界隈の水商売関係の、沢山の老若男女が綺麗に着飾ってお参りに来たそうで、なるほどと頷いたものです。“祭りが何故土用の丑の日か”については由緒書にこうあります。
“暦應４年辛已（一三四一）頃 夏の土用が来ると毎夜、すさまじき光が見え住民は恐れ近づくことができなかった。そこへ修験行者が現れ密かに見ると、大岩付近の岩石から世にも不思議な光が大空に向かって放たれていた。里に帰った行者は、国主、住民を集め見たことを話し、祈祷して光を鎮め社を建て、付近一帯の守り神として崇めさせた。その行者とは薬師如来の化身であったとも伝えられる。・・・・・此の付近一帯は神域であり、恐れ、木の葉一枚持ち去る者なく、昼尚暗き深山と化していった。慶応年間 池田輝政が姫路城築城のさい、供木を強要、天守閣の真柱に使用した。その木片が帰り切り株に付着、萌芽した。現今「芽生の神木」として崇め来ている。時代は移り変わりて、狼を神の使者として崇め大難を小難に変え給う「身代わり狼神（おおかみ）」として信仰してきた。・・・”
この神社の社の後にある杉の大木が、姫路城の真柱に使用された杉の切り株から芽吹いたものであり、狼神として信仰されているとは、全く知りませんでした。他にも此の神社には「夫婦杉」と呼ばれる、根回り十三メートルにも及ぶ県指定文化財で、二本の杉の木が一本に融合しているという、極めて稀で摩訶不思議な大木や、名も無き古木達が鬱蒼と茂っています。またその昔の女人禁制の名残で、女性がお参りする時は、下のほうにある小さな淵で身を清めてからでないと入山できなかったそうです。現在においても強い信仰心に支えられ、怪しげな雰囲気を醸し出している神社ではあります。
前置きが長くなりました。この岩上神社の近くで、大工をしている人が夜遅くの仕事帰りに大蛇を見たというのです。初めは大きな松の倒木が道路をふさいでいると思い、これでは邪魔で通れない、と車を降りて木を除けようとしたところ、その倒木がモソモソと動き始めたのです。ビックリしてよく見るとそれは大蛇、ブルブル振るえながら立ち尽くしていましたが、大蛇が草叢に姿を隠すや否や飛ぶようにして帰ったそうです。人に話しても誰も信じてくれないが、自分は確かにみた、ということです。蔦沢には他にも２～３人同じような経験の人がいるが、話せば「ばかな！」と一笑され、ほら吹き扱いされるのであまり話したがらない、とか。神社の掃除を任されている婦人会の人も、社の裏で大きな蛇の抜け殻を見かけることがあるとかで、此の話を聞いて以来薄気味悪くてならないそうです。千代川にヤマメ釣に行った帰り道で、丁度祭りの当夜、土用の丑の鰻丼をご馳走になりながら話を聞かせてもらいました。
さて皆さん、貴方は此の話どう思いますか？ 次の話と併せて考えてみてください。
上郡の大蛇
今年４月初、相生市にある相生園芸店で蘭談議をしているときのＮ氏の話。ちなみにＮ氏は、若かりし頃から一人で春蘭やセッコクを取りに行く名人として知る人ぞ知る人物です。
兵庫県赤穂郡上郡町の落地（おろち）と言う所の山奥に“セッコク”を採りに行った時のことじゃった。忘れもせん、あれは平成９年６月３日 何時もの様に一人で出かけたときのことじゃ。昔の石切り場の先の、崖の上からロープを使って少しずつ下のほうに降りてゆきながら“セッコク”を採っておった。誰にも知られていない場所じゃてよう採れた。白やピンクのかわいい花が咲いとって、そんなのを何千本も採ってビニール袋につめて腰にぶら下げとった。楽しくて ついつい鼻歌交じりに夢中になって採っとった。そのうちフッと吾に返った。何でか分からんが、全身に悪寒が走り、毛穴という毛穴が全部逆立ってきた。ぶるぶると震えさえ襲ってきた。今思うと、動物が持つ本能というやつだったろう。動きを止めて静かに耳を澄まして、初めて異変に気がついた。それまで、何とはなしに耳に入ってきていた虫や鳥の鳴き声が全く聞こえない。ザワザワという木々のざわめきさえもが遠去ってしまっている。まるで森そのものが息を潜めて危険が立ち去るのをジッと待っているかのような、そんな緊張感・・・いや殺気さえ感じられる空気が辺りを占領している。呼吸が苦しい・・・・。なぜ？ そう感じながら辺りを見回した。頭をぐるっと回して、三十～四十メートル離れている反対側の崖を見たとき、妙な物が目に飛び込んできた。電柱よりやや大きめの松の木らしきものが、横に伸びて崖の途中に引っ掛かっている。はて？ 前にはあんなものはなかったのに！
と思いつつ、尚よく見ていると、その松の木がグネグネと動き出したではないか！ギョッとして左のほうへ目を移すと、なんと！そこには手水鉢より大きい頭をした大蛇が鎌首を上げ、長く赤い舌をペロペロさせながら、深海の青黒い様な、冷たい目をこちらに向けてジッと様子を窺っとるじゃないか。驚いたのなんのって、一瞬全身が凍りついた。あんた想像してみいな。自分が餌として狙われとるんじゃ。どんな思いがするか。それはそれは恐ろしいもんじゃ。
幸いにも反対側の崖じゃった。距離がある。ロープを伝ってよじ登り急いで逃げよう、そう思うのじゃが腕に何故か力が入らん。必死でロープを掴み、何度も登ろうとしたがどうしてもだめじゃ。下に下りて逃げれば何とかなりそうだが、すぐに追いつかれ食べられてしまいそうなきがする。とにかく逃げにゃあ と結ばれたロープをそのままに、扇形に崖をよじ登り、必死こいて逃げた。大蛇がどうしたかだと？そんなことは知らん。後ろを振り返るそんな余裕なんぞありゃせん。とにかく逃げた。家に帰り着いても当分振るえが止まらなんだ。こんな恐ろしい経験は生まれて初めてのことじゃ。もう二度とごめんだ！あの山には何ぼ頼まれても二度といかん。
こんな話を聞かされて、落地（おろち）を訪ねてみました。ＪＲ相生駅から１３～１４キロ 国道２号線を西へ行き有年（うね）を過ぎて、鯰峠を下った所が上郡町落地（おろち）というところです。国道横を並ぶように走るＪＲの線路を横切って黎明橋という小さな橋をわたると、すぐそこに落地八幡神社がありました。傍で作業している地元の人にこの話をしたところ、”最近はそんな話は聞いたことがない。３０～４０年前には、あそこに見える煙突の上のほうにある溜め池で大蛇を見た人がいて、恐ろしゅうて逃げ帰り、“そうけ”を頭から被って震えていたそうだが、やがて死んでしもうた。 というはなしを子供の頃には聞いたことがある。何処の誰が話したか知らんが、今時おれば大騒ぎになっとるよ。アハハ・・・ “と笑い飛ばされてしまいました。しかし、ここには落地（おろち）という地名がある通り、この神社に大蛇の話がありました。以下に八幡神社の由緒を紹介しますが、この地元の人の話で、本人の言葉とは裏腹に本当に大蛇がいるのではないかという気がしてきました。
“弘安２年（１２７９年）夏 当地に大雨あり。里人これを眺むるに、空中龍の昇降するに似たり。しかば、恐懼して心身を悩まし、一種奇異の病魔に犯され煩悶せしに、一夜老人夢むらく、吾村は山の里高嶺神社（御祭神牛頭天王）の素盞鳴命、神代に大蛇を切り殺し給える霊魂、今此の地に現れて悩ますものなりと。即ち今より村名を落地（おろち 大蛇）に作り（大蛇の霊魂地に落つるの意か）武勇なる八幡大神を祀り以って信仰すれば、里人の病立ち処に平癒すと。翌朝相謀るに、大半皆同じ夢なり。依って神地を今の地に卜し、譽田別命（應神天皇）を齋き奉るに一種奇病忽ち癒えたり。
慶長１８年に池田輝政本郡を領して規模を修め、金穀をよせて祭粢料を充てたりと“ 白雲書
以上二つの話を紹介いたしました。他にも渋谷会長からお聞きした話ですが、“それこそ３０～４０年前の事、新宮町の中学校の理科の先生が、生徒を連れて山に実習に行った時、ザーッザーッという音と共に大きな蛇がでてきた。危険を感じた先生は、生徒を集めて急いで下山した。”とか、別の人の話で、“青木カントリークラブのある渓谷で、大きな蝦蟇ガエルを呑み込もうとしている蛇に出会った。””御津町に大蛇がいて、漁師はそいつが出てきた日は漁を止めて、家に帰って寝る“といった大蛇にまつわる話も聞きました。 自分が住んでいる、兵庫県の此の地に、まさかこれ程リアルな大蛇（おろち）の話があるとは思いも掛けないことでした。広島の山奥に住んでいた子供の頃、村の秋祭りで、神楽の最後に「八股の大蛇」という舞があり、口から火を吹きながら登場するその大蛇の恐ろしかったことを思い出しつつ、いずれの現地にも行って、無防備のまま１～２時間うろついてみました。私自身“まさか！”の思いで信じていなかったからです。しかし、現地は鬱蒼とした木々が生い茂り、しかしその割には木漏れ日も射していて、鳥や虫の声が響き、柔らかい草も水もたっぷりあって、鹿や猪、狐や狸等生き物の生息環境が充分に整っており、何十年何百年も大蛇が生き延びていたとしても不思議ではないと思われました。
皆さんはこの二つの話を信じますか？それとも「ほら話」として笑い飛ばしますか？・・・。蘭や山野草を採りに行かれる時はくれぐれも御用心！貴方のすぐ傍でジッと大蛇（おろち）が様子を窺っているかも知れませんよ。
以上
名花の横顔 日向の誉 竜雪 司の華 静素
藤崎 景士
県外の展示会などで趣味者の方から受ける質問に、「日向の誉」は何種類ありますか、育てにくいのですか、なかなか太りませんが。同じにように「竜雪』、『白妙』などがよく聞かれる品種です。そこで、編集部から依頼のあった品種九点の内、先ず日向の花、表記四点について私の知っている事というより、感じていることを述べてみたいと思います。先輩諸氏がたくさん居られる中、私の独断と偏見で反論もあろうかと思いますが、そんな見方もあるかぐらいに聞き捨ててください。
一、品種、兄弟木等類似品があるか。
二、育ちについて、蘭の性質、光や肥料に対して強いか、繁殖はよいか。
三、蘭が持つ特徴持味の引き出し方、咲かせ方。
四、今後の問題。
以上四項目について考えてみます。
個々について述べる前に、全般論から、一般的に白花は根が弱いようです。豊雪のように良く殖え太りも良く強いように見えても、種をつけたりすると極端に弱ります。
次に、紅も根が弱いといわれます。ところが、日向の誉等は種をつけてもびくともしません。根の強さ、繁殖力、薬品に対しての強さ、負荷(花をつけたり)に対しての強さ等は、必ずしも比例するとは限らぬようです。
一般的に根が細い品種は根が弱いようですが、大雄、玉金剛等は根が太くても根の表面が(うどんのように滑らかでなく)ごつごつした感じの根、これも弱いです。特に乾燥に弱いように思われます。
チャボがかったもの、川登、日向王翠翁等は風通しを良くし、水を度々やるほうが良く育つようです。乾かさぬこと、しっとりした湿り気が必要です。その為に表土は小豆粒以下の小粒を使い、鉢の下は湿度があるようにするなど環境を整える事も一法でしょう。前置きが長くなりましたが個々に本題に入ります。
日向の誉
一、昭和四十五年の登録。登録された木は、西米良村の入から苗を購入したもの、苗に咲いたもので、村所の産ということだったが、その後坪取りが数多く出てきて、登録木以外にも認定を受けたものが三種ある。その後も認定を受けぬまま、日向の誉で流通しているものもある。認定を受けた三晶種の内、二品種は殆ど登録木と同じ。日南支部から提出されたものが、別扱いで日南の誉の通称で流通している。違いは、小さいときはやや細く、成木になると登録木より大木になるようで、花が大きいといわれる。入によっては二品種育ててみたけど変わらないという入もいる。産地が熊本との県境なので、熊本県球磨郡からも山引きが出てきて、その中に葉が少し細めのものがあったが、花は殆ど変わらなかった。
二、肥料には強くないが、繁殖、太りは良い。袴の枚数が多く、成木では六枚葉がでる。陽を採ると良く太るが古葉の先が傷みやすい。蘭坪の土を使ったり、風通しを良くすることで改善する。
三、根を良く作り、充分な木になって咲かせると、花の末期まで舌が巻き込まずに、内弁も抱えよく咲く。花茎を沢山上げすぎないのがコツ。この花の入気の一つは花持ちのよさ、良く咲かせた花は十月末から十一月末まで一ケ月間、型崩れなしに十分な花が見られる。花を長期間つけても作落ちしにくい。早咲きなので陽を採る間が少ないが、花色は出やすい。軸まで色を出すには、花芽が小さい内から柔らかい陽を十分に採れば共軸に咲かせられる。柔らかい陽とは、直射ではなく北からの空の明かり、朝の直射は良い。
四、坪取りが多いのと、繁殖がよいので、子苗は沢山あり購入しやすい。紅最高の花で必ず持ちたい品種の一つだろう。登録木の良い点は、木が大きくなくても良い花を咲かせるてと。大鉢が嫌いな人向きである。
竜雪
一、昭和五十一年登録。初花で登録されたものが登録木である。産地(東郷町竜馬)蘭坪が入に知られることとなり、同坪から素心の花が次々咲いてくることになる。葉質、花ほとんど同じだが、少し性格の違う物があるようだ。大きく分けて二種、葉がヤヤ広幅で、少し横に寝るものは舌が大きく、花数も少なく、チャボがかって見える。葉の腰が高いほうは、花茎も高く上がり、端正な豊雪に近い咲き方をする。どちらが良いかは好みで選べばよいと思う。
二、根が弱いのか、小さいときは太りが悪いといわれるが、繁殖力は強い。芽が良く出るので太りにくいのかもしれない。花は着き易く小さな木でも花をつける。葉は陽に弱く、さびが出ることがあるのでヤヤ暗めが良い。さび病が出たら、新芽のときからトップジンを良く散布すると出なくなる。
三、小木だと、チャボのように咲き可愛い。この花の魅力は、なんといっても透明感がある深い色あいの翠緑色の花色であろう。お菓子のゼリーのようで思わず食べたくなるほどだ。
木を大きく育てるのは難しいが、成木葉丈五十センチ位には育てたい。花茎も上がり、端正で見事な花になる。花持ちはさほど良いほうではない。
四、つい最近まで、小苗でも強気の値段だったが、小苗はずいぶん安くなっている。見た目が綺麗で、作上がりしている根の良い苗を探せば、太りは早いと思う。さび病の木が多いので気をつけよう。
司の華
一、昭和四十九年登録。青の平肩咲の良花を産出する東郷町観世谷の産であるが、岩の割れ目から1本出ていたといわれ、その後近くからも産出がなく、同種兄弟木はない。但し、観世谷から素心の花も見つかっている。また司の華の葉の突然変位、黄縞の葉芸品が出ている。
二、白花としては割合作りやすく、太りも早い。繁殖は普通で花つきもよい。葉がなかなか四枚葉にならない。他種の木なら四枚五枚に成るところ、三枚葉ということは大木になる性質だと思われる。また三枚でも花は咲く。葉の緑がヤヤ薄いだけに、通風には気をつけ、陽を採りすぎないよう、葉が黄色っぽくなりやすい。
三、この花の見所は、超大輪の一文字咲きである。他種では成木と思われる大きさでも、三枚葉になる事がある。そのような木でも見事な花は咲くが、葉丈五十センチ以上の木で咲かせたい。
十三センチ以上の花を花間良く、恰も鶴が飛んでいるように、それがこの花の見所だろう。湿度のあるところで咲かせれば、超大輪の花が手を加えずに端正に咲いてくれる。
四、元々数が少なかったのと、入気ナンバー一の魅力からか、花が咲きそうな中木でも十万円と白花では最高の高値を維持している。最上木はなかなか探しても見つからない。中木三本立ち四、五万円位がお薦めだろう。
蘭は辛抱草といわれるが、肥培管理をうまくすれば、棚に入って三年目にはぐんと大きくなる。今は、誰でも作りやすい肥培管理方法を公開して教えてくれる。今ある品を二、三年辛抱して作ろう。
静素
一、昭和五十五年の登録。登録者以外で山引きした人はないようで、兄弟木はない。一種類。
二、大変繁殖がよい割に、小さいときは太りにくい。根が細く弱いので、小粒の用土を使ったほうが良い。大きく成木近くなると育てやすくなる。葉が陽に弱く、陽を強く採ると葉先の紺が薄れ、黄花の柄のようになる。
三、花つきは良くない。花芽が付いても止まることが多い。上木に咲けば大輪で、弁幅広く弁元の底紅がなんとも美しく、大きな舌は白に近い素舌とそれは素晴らしい。
この花以上のものはないほどだが、小木では花弁が薄くなるためか、開花後時間がたつと花弁が少しよじれるのが難点。新芽が沢山出るので新芽は一つにして木を大きく作りたい。小さいときは作りにくいが、ヤヤ暗目にしてやると、中木以上は非常に作りよくなる。花色を出すには、花芽がある程度大きくなったら柔らかい北の明かりを十分に採ると、底紅が鮮やかに発色する。
四、産地でも十分な花を見ることは少ない。作りにくいとか、咲かない、咲いても期待はずれで諦めている入が多いと思われる。やっと咲いた花で評価しては花が可愛そうだ。こんな時こそ挑戦しては、但し、大木に育てなければならない。
最後に、作がもう一つと思っておられる方に、最近培養方法も進んできて作り難い木でも、易しく作れる用土などを各地の業者などが販売したり、紹介したりしています。例えば、この関西寒蘭会にも見える、阿波園のスーパーK、宮崎の南光園が奨励する植え方、春蘭ですが寒蘭にも通じます、千葉の佐伯園の勧める植え方と用土、等々自分に合いそうなもので挑戦してください。
雨水タンク設置のおすすめ
日向寒蘭愛好会 栗原稔
皆さん、雨水をもっと利用しませんか。私は、十六年夏に五百リットルの雨水タンクを設置しました。この水を愛培している寒蘭や、プランターの花、猫の額ほどの野菜畑にも使っています。これらの水は飲み水として作られた水道水を使う必要はなく、むしろ雨水の方が植物にはやさしいはずです。
十七年の台風十四号では宮崎市の浄水場二箇所うち一箇所が水没し、私の住む高台の新興住宅地は水道が三週間近く断水しました。給水車が来てくれるのですが、二十リットルのポリタンクでは風呂やトイレの水までは運べません。幸い、私は雨水タンクのお陰で大助かりしました。この断水騒ぎで近所に雨水の利用を始める入が増えたのを喜ばしく思います。
水道水を造るには、膨大な設備と多くの電力が必要です。下水道設備も同様です。その為、宮崎市の場合、ニケ月に四十一トンの水道水を使うと、水道料金約四千九百円と水道料金三千四百円合計八千三百円が徴収されます。
国立環境研究所の資料によると、水道水一トン造るのにO・五七九キログラムの二酸化炭素が排出されるそうです。
一九九七年に京都で気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP 京都会議)でいわゆる京都議定書が採択されました。最大の二酸化炭素排出国のアメリカが離脱しましたが、二〇〇四年九月にロシアが批准し、二〇〇五年二月十六日にようやく発効しました。ドイツ等は、かなり排出抑制に成功しているようですが、ほとんどの国が増え続けて炉るようです。日本の目標達成も容易ではなさそうです。企業の排出はかなり改善されつつありますが、交通や私たちの生活による排出ガスがどんどん増加しています。
天からの恵みの雨水を最大限利用して、水道水の使用量を減らし、地球温暖化防止に少しでも役立てましょう。
※タンク内に少しでも光線が入ると藻が発生します。タンクの色は黒色で蓋のしっかりしたものが良いです。 参考 サミットローリータンク(黒)
五〇〇リットル ニ万五千円
※簡易貯水タンクについて
費用も安く場所もとらない簡易タンクについて、付け図と費用を書いてみます。
1 四十五リットルゴミ容器……七〇〇円
2 分岐チーズ･･･････････････四三八円
3 エルボ････････････････････二〇八円
4 上戸･･････････････････････七一五円
5 ネジ蓋････････････････････五〇〇円
合計 二、五六一円
東洋蘭人工交配種の問題と展望
野口 眞人
最近話題に上る事が多くなった人工交配種に付いて、数年前から全国の東洋蘭趣味者と話し合って来た。賛否両論があり未だ結論には至っていないが、緊急を要する問題でもあり、現状や一般的な認識、問題点、東洋蘭界の採るべき方策などを整理したいと思い筆を執った。ここに掲載する大部分はウエブ上で行っているフォーラムからの抜粋であり、発言者は段落毎に不定である。従って各入の発言の冒頭に◆を付す。また、紙面の都合上全文ではなく要約文とする。
A 般的な認識
まず交配種に対する趣味者の一般的な現状認識を掲載する。
◆交配種の件ですが、私は希望として命名登録をしていただきたいと思います。新しいものを生み出したいという欲望は規制できません。先に見つけた入、先に作った入が勝ち(?)なのです。後人はそれを見極める必要があります。間違いは訂正を証明しなければなりません。そのためにも花を確認するなど急がないことです。
◆度々論争になっています人工交配やバイオのことですが、勘違いをされている方が多いと思います。寒蘭や春蘭などすべての植物は、自然に交配をして種子を作り子孫を残してきたのです。突然山の中に出現しているわけではありません。同じ土地の中で違う花が見つかるのは、交配による結果です。昆虫たちに代わって入間が交配してやればもっといい花が生まれてくるのは、ウチョウランやエビネを見ればよくわかると思います。(ただし寒蘭と春蘭と交配したり、春蘭と恵蘭を交配したりするのは、これはまた別の園芸部門だと思います)。
◆「黄流」は、バイオで作られたもんだよともいわれましたけど、寒蘭にもない、また春蘭にもない色鮮やかな東洋蘭として大好きですね。東洋蘭の入工交配については、色々言われておりますが、洋蘭の世界のように、いずれは入工交配やバイオが盛んになっていくのではないでしょうか。もっとも、その際においては、掛け合わせた両親の名前だけは明確にすべきですけどね。
◆エビネの品種ですが、特に現在入気のニオイ系エビネは、ヒゼン系の血が入ると香りが変わってしまいます。ある業者の花ですが、明らかに入工交配と分かる花を野生種として扱っています。花が良ければ、原種、入工交配にこだわりなくコレクションの対象としています。ただし白然界にある交配のみです。人工交配であっても、花の価値が落ちるとは思いません。
◆入工交配を行うと、もし良い花ができるとその親の木を買わなくなるという人がいますが、それは余りに皮相な見かた考えかたではないかと思います。えびねなどはほとんどが交配ものになってしまいましたが、マニアが目の色変えて探すのは天然もののニオイやコオズですし、当然交配ものより高値になっています。古かろうが新しかろうが、また、交配であろうと天然種であろうと、良いものは良いとして素直に評価する態度が必要なのではないかと思います。
◆変わり物を求めるという風潮が、種間交雑を進める事を助長しているのではないかと思います。梅弁もチャボも面白いとは思いますが、本来の寒蘭の良さとはかけ離れたものです。寒蘭界の救世主では有っても、「洋蘭シンビジュームと何ほど違うのか?」と疑問を感じるのも事実です。
◆中国や韓国でもメリクローンや実生などの大規模な繁殖が試みられているようで、関西の寒蘭、関東の春蘭系とあわせ、これから大量の実生が流通してくることは間違いありません。実生を相手にしないのも一つの見識ですが、無視しても無くなる事はないので別物の園芸ジャンルと考えれば良いのではないのでしょうか。
交配種を野生品と偽り、出所や交配親をあいまいにすることでの混乱が問題だと思っています。野生種やその変種を愛好する入と交配種を好む人は、どの園芸ジャンルにもあります。
ただし洋蘭では交配種もその出自を明らかにすることが求められているし、展示会などで同じ基準で審査されることはあり黛せん。また高価なものは交配種でもより抜かれたもので、量産された実生晶が高価に売買されることもありません。(業者側からの意見)
◆春蘭、えひね、寒蘭なと、すべてが交配になっています。特にエヒネはもう手が着けられません。いつまでも昔のものにこだわっていてはついていけなくなり、時代おくれになってしまいます。業者は生き残りをかけなければならず、大変な時代だといえます。その点趣味者はまだ救いがあるといえるのではないでしょうか。以前のように大もうけはできませんが、好きな昔の花をじっくりと作りこむことはできます。
二、三の例外を除いて、概ね「花が良ければそれで良いじゃないか。ただし、交配親は公表すべきだ。」と言う意見に集約されそうである。ここで「交配親は公表すべき」が、なぜか付帯事項になっている点は気懸りである。
また、業者側から現在の時流を見るとサバイバルの様相を呈しているようである。趣味者は全ての責任が業者にあるかのような発言をするが、東洋蘭全体が先細りである現状を考えると、交配実生の原因を業者に責任転嫁して済むわけではない。
B 現状と問題点
入工交配種問題では事実が先行し、趣味者の認識や問題点の整理、蘭界の対策が後手に回っているというのが実態である。次に入工交配種に付いての、各地からの報告を挙げる。
◆人工交配種が一部の商入また趣味者により、ずいぶん出回りつつあります。わかっている間は良いでしょうがインターネット・オークションを見てみますと無名の葉変わりチャボ系として出品されているものも多々あり、知ってか知らずか何入かが入札されています。中には三～四年すると元に戻るものまであるようです。恥ずかしながら私も知らずに入札しでいまして、そのときは知人より指摘がありすぐ取り下げました。分かっている方に教えていただける場合は良いのですが、なかなか難しく見分けがつきません。
◆東京では既に中国春蘭では軍旗から変化した天山のメリクローンも安く出回っています。寒蘭については日本から行ったもののメリクローンということで、元の品種名は分かりません。売られていたのは三種で、それぞれ紺覆輪黄中透、白黄覆輪、白散斑です。問題はこれらの交配種がどのように売られるかだと思います。私が見た卸段階のものは一鉢つつ交配記録が書かれたラベルがつけられていました。しかしこのラベルがどの段階まで付いているかは分かりません。ラベルを外して、ただの奥地蘭として売り出されても見分けはつかないと思います。
将来は奥地蘭と三口っても雲南や四川の奥地とは限らず、東京や大阪の奥地のフラスコが原産地だったりするかも知れません。同じことが寒蘭にも起こりつつあるのではないでしょうか。寒蘭では既にフラスコ苗も出回り始めていますし、産地では山に種を蒔く試みが続けられています。「山採り」「坪採り」苗が、実は「山蒔き」「坪蒔き」苗である可能性は無いのでしょうか。
メリクローンや同種内での入工交配は価格破壊を加速することにはなるでしょうが、未知のものを創り出すことはありません。一方、種間雑種は今まで目にしているものとは異なるものを創り出します。
◆今、寒蘭の産地でもおかしなことになっています。自然採取ができないものだから、白分で各産地の名品を交配し山に蒔いています。寒蘭を山に返すということらしいですが白然界では九州の名品と紀州の名晶が掛け合うことはありませんのでとても不自然です。さらには最近では、杭州寒蘭やナギ蘭とかけた物まで蒔いています。環境省では固有の生物種を守るため外国産のクワガタムシを逃がさないように呼びかけていますが、寒蘭とて同じ事です。自分の山に蒔く事の何が悪い、個入の欲望を満たせばよいという考え方は、かつての乱獲以上に深刻な問題行為です。また、山にバラ蒔くので生えてきた新芽は何が親になったのか確定できません。交配種を登録するなら、少なくとも両親を明記する必要があります。
◆交配実生をされている方のお棚を訪問しF3の交配花を見ましたが、銘品を超えるような花が多数咲いていました。一部の業者が買っていく」との事で、それらの苗が「交配物」として売られているかどうか疑問です。交配親に使われている株は全国から集められた銘品ですが、F3の花には「何となく交配親が判る」と言うものは有りませんでした。
◆不易流行と言いますが、一時の流行や欲望だけで将来の方向を決定しても良いのかどうか、交配をしている方は「交配する事の責任」も考えて頂きたいと思います。何をどのように言い繕っても、種間交雑種はその子孫に至るまで、二度と元には戻りません。入工交配の行為者は「自生種との区別」や「交配親の記録」、「山採り品に化けないための工夫」、「交配親の範疇や交配のモラル」、「東洋蘭として許容される範囲」等々、なすべき事、考えるべき事がたくさん有ると思います。
ここまでに提起されている問題を整理する。
一、 入工交配種(種間交雑種)を「山採りチャボ」と偽って販売している。或いは矮化剤を使用する事により外見を偽っている。
言うまでもなく詐欺行為であるが、大半は訓化が不十分なので購入後二～三ヶ月で枯れてしまうようだ。仮に無事に育ったとしても、幼苗が開花するまでには数年掛かるので問題の発覚が遅れ、問題が認識された時には購入者が諦めてしまう。多くは中国で生産されたもので、不正な手段を使って密輸されているようである。
特にネットオークションでの被害が著しく、中には数百万円の被害を受けた方がある。当時、加害者の一入である中国人(自称)とメールのやりとりをしたが、「一つが違ったからといって、他も違うとはいえない。一つか二つしか買ってない入が、その花が違うからといって大騒ぎされては迷惑だ。」といった調子で全く誠意が無く、被害者の一入が返金交渉をするため何度も電話したら電話に全く出なくなった。その後は名前を変えて再びネットオークションに出品しているそうである。
また、近年の中国蘭ブームで、新花として輸入されたものにも疑問符を付けざるを得ないものが多く含まれているようである。あろう事か、一部の日本の業者が「品違い(薬品処理による加工品など)を承知の上」で中国から持ち込まれたものを買っているとも聞いた。
二、 メリクローンによる芽変わり品種の大量生産と、作為的にラベル落ちにされる事への懸念。
発芽前段階のリゾームを細分化し、栄養繁殖を行う事によって数万の成長点を得る、ホルモン添加培地に移植すると発芽するので、キメラ変異が発生した部分だけを選抜すれば、高い確率で柄物を得る事が可能である。
以前に済州寒蘭として出回った寒蘭の柄物チャボ小苗は韓国光州の洋蘭業者が生産したもので、済州寒蘭とは無縁のものであった。また、最近になって中国春蘭銘品に急に柄物が出現した理由は、同様の方法で作出されたものであると聞いている。
東洋蘭とは全く別のルートで光州から輸入したビン入り柄物を扱っている輸入業者の話では、日本での販売価格を千五百円と設定している。ところが東洋蘭界では同様のものが数万円に化けている。今までこれらがメリクローンの産物であると公表された例が無い事から考えて、今後も芽変わり品として高額で出回る懸念が有る。
三、 無秩序な交配種子の山蒔きと、販売目的と思われる種間交雑種の播種。
寒蘭の場合、最も深刻で早急に対処する必要があると思われるのが「交配種子の山蒔き問題」である。入為的に種間交雑種を山蒔きし「芽変わりチャボ」として販売されている。多くの場合、チャボ苗を作るためにナギランや報歳蘭が使用されているようである。
日本国内に本来自生しない種間交雑種を野生化させる事には、生態系に甚大な被害をもたらす可能性を含んでいる。動物の例では全国の湖沼へのブラックバスの放流やペット動物であったワニガメなどの野生化などにより向した特定品種を山野に播種する事は、愚行としか言い様が無い。フラスコ苗なら問題は無いといえそうだが、人為的選抜である事には変わりが無く、既に遺伝情報の偏向は始まっている。初期に作出された「西谷物交配種」から「濃桃花」「チャボ」「ボテ花」と入為的であるがゆえに時流は直ちに反映される。将来、茶と同じ轍を踏まないとは断言できない。
C 文化としての東洋蘭
例えば中国春蘭の場合、七十年以上も旧品といわれる戦前に輸入された品種だけで成り立ってきた。最近でこそ落山新花ブームで沸き立っているが、未だ「宋梅」を超える品種の出現は無い。「価値基準が変わらない事」は一見「停滞」であるが、伝統とは本来そのようなものである。次々に新手を繰り出す事も時には必要であるが、軸足がプレない事はそれ以上に必要である。東洋蘭にとって本当に新品種が必要なのかどうか、もう一度考え直す時期が来たようである。
東洋蘭は広義の園芸の一部ではあるが、伝統園芸でもある。伝統園芸はわが国固有の文化で、江戸時代初期にはオモトやマツバランなどの専門書が発行されている。それ以前の専門書は無いようだが、生け花の古い図版などから類推して、植物の鉢植えは書院様式に伴って発展したと考えられる。
伝統園芸はわが国の習俗、宗教や思想に深く影響を受け、独自の白然観のもとに発展してきたもので、明治以降に導入された西洋思想に基づく近代園芸とは本質的な違いがある。
◆蘭を楽しむ人に二とおりの入がいます。蘭の中に清楚、詫び、寂など自然観を求め自分の心と向き合い、自分の心を求めてゆく入。後一つはバブルを楽しむ入です。蘭会を組織していくには両方を受け入れなければなりません。どちらが良いとか、悪いとかは問題にすべきでないと思います。各人の生き方に由来するものでしょう。
◆春蘭も人工交配種が出てきています。交配の中から良いものだけを選別するのですから、良く見えるのは当たり前です。一般的な評価なら、「良いものは良い。」ということで何も問題にならないですが、これを春蘭界に持ち込んで評価云々となると、「全く評価に値せず。」という事になります。こちらは臼然採取の原種変化が基本ですので、交配種がいくらキレイでも、山の普通種の方が評価としては高くなります。自然採取が出来なくなってきたからとかは問題ではありません。自然の突然変異によるオリジナリティーの貴重性を春蘭界は評価の基準として伝統化してきました。思い違いした一部の商入が「OOの光」などを販売し、高価にすることで価値があるように思い込ませ、また理解不足の趣味者が買って自慢にしてしまって混乱に拍車をかけています。外見だけしか教えない春蘭界の指導的立場の人達にも大いに問題がありますが……基本的に春蘭界の伝統は変わることがありません。精神的なものですが、たとえ寒蘭同士の交配であろうとも、その後ろについてくるのが交配を行った人の顔が浮かび、それ以外に何もイメージできません。山の寒蘭の後ろにはどんな並物でも豊かな臼然がイメージできますし、それがこの趣味の中でかなりのウエイトを占めていると考えているのは私だけではありますまい。
人工交配の賛成論者は、意識的、無意識的に拘らず、東洋蘭を概ね近代園芸の一部と捉えているのに対して、反対論者の場合は明確に伝統園芸と捉えている。
その点では東洋蘭界そのものが、近代園芸なのかそれとも伝統園芸なのか、明確な位置付けを行わなかったのも事実である。たてまえとしては伝統園芸であるが、展示会では近代園芸の評価方法を無批判に導入している。(審査基準、展示方法などに、近代園芸の価値評価と根本的な違いは無い。)
また、東洋蘭業者が各地の蘭会を実効支配している事にも問題があり、入工交配種も趣味者が考える以前に無批判に大量に導入されて、既に臼生種として登録されたものも少なくないという。
次にこれらの諸問題に付いて交わした書簡を掲載する。
◆寒蘭に限らず、現在に至るまで東洋蘭界が行ってきた花の評価は、ある種の典型を最大限に評価するという事だと思います。従ってその典型が普及した時点で希少価値が無くなり、その類型が同時に評価されなくなると言う事を繰り返してきたのだと思います。例えば豊雪を中心とする西谷物や、チャボの流行がその例だと思います。はこの様な評価方法白体に問題が有ると感じています。
典型を最大評価してきたのは、いうまでも無く各地蘭会の展示会です。残念ながら現在の展示会は品評会に過ぎ吏せん。その花の個性やうまみも、作者の表現したい事も哲学も必要有りません。そろそろこの辺りで品評会のための花作りを卒業する必要が有ると思います。
◆全く同感ですがこの「ある種の典型」の消長は白然に起こるのではなく、人為的に演出されているのだと思われます。「ある種の典型」を意図的に宣伝してブームを演出し、それが頂点に達した頃には別のものを準備して乗り換えのタイミングを計っている、という事が欲ボケがらみで繰り返されて来たのだと思います。
このような宣伝と演出の場が各地蘭会の展示会だったのではないでしょうか。展示品の審査や命名登録を行う時に、「ある種の典型しが常に上位に入賞したり命名されることで、]般会員の注目を引き収集意欲を刺激することになります。あとは高値で派手な取引を演出することで「この蘭は高いのだ」という幻想が植え付けられるのだと思います。
このような演出を可能にしてきた原因の一つに、寒蘭展における審査のやり方があったのではないでしょうか。各地蘭会の審査基準や審査方法を見れば、一応の基準は定めていても実際は審査員の協議で決まるというのが実態です。そこに談合と駆け引きの入り込む隙があり、実際にそのような世界になってしまったために、客観的で正当な評価がなされる場ではなくなっていたと考えられます。この辺に手を付けていかないといつまで経っても同じことの繰り返しで、良い蘭を発掘するという展示会本来の重要な役割が損なわれたままになってしまうのではないかと懸念されます。
私の個人的な見解としては、前文の「客観的で正当な評価」という部分には、便宜上仕方が無いとしても、多少違和感を覚える。東洋蘭を「伝統文化」として捉えた場合、バランスや総合点よりも各臼の印象を優先すべきで「主観的で曖味な評価を成立させるべきだ」と考えている。ただし、「談合と駆け引き」を是認するものではない。説明すると長くなるので例を挙げる。「日本入は太古から事物を印象として捉えてきました。したがって印象派以外の西洋絵画を理解する事が難しいのです。」これは近世美術に付いての論評からの抜粋であるが、東洋蘭の評価としても間違っているとは思えない。
絶対唯一神に基づく文化や哲学を持たず、その抑圧やそれに対する反発も経験しなかった日本人の自然観はいたって大雑把で曖昧なものであり、厳密な意味での哲学は存在しなかった。事象には根本原因が無く偶然に発生した自然現象であり、それらを個々の印象として捉えたのである。
換言するなら、東洋蘭の変異個体を天与の自然現象と捉え(天の思想)、そこに「天のなせる技」として神秘を感じ取ってきたのである。事象に対しては受動的であり、それ故に感性は敏感にならざるを得なかったのである。全てが神の手によって作られ、ゆえに整然としていて論理的でなければならない(イデア)と考える西洋の自然観とは本質的に相容れない部分がある。
「東洋蘭は入工交配に馴染まない」という意見は、「伝統園芸はそのような日本的白然観を背景に成立している」との歴史認識を踏まえたもので、『入工交配を容認すれば、最早「伝統園芸」ではなく、「近代園芸」または「ガーデニング」と区別されるものでは無い。』という考えに基づいている。
仮に「東洋蘭も近代園芸の一カテゴリーであり、入工交配種を奨励する」なら、東洋蘭はその依拠する「東洋的な価値観」を失う事となる。仮に園芸として盛んになったとしても、それは既に東洋蘭ではない。結果的にそれは東洋蘭の終罵を意味するものである。
伝統を守るためには、多少偏狭であっても形式を崩さない事が唯一の方法である。わが国の伝統文化や伝統芸能はその様にして守られてきたのであり、これに付いて議論の余地は無い。
D 行うべき対策
現実的に考えるなら、既に手遅れというしか無さそうであるが、これ以上自生地内に「正体不明」の種を播く事を続ければ、「あそこの産地の物は純粋種かどうか分からない、値打ちの無い蘭だ。」といわれ、「将来に渡って自生地を汚す」事にもなる。結果的に、交配種によって自生種も価値の無いものとされてしまう。それでも交配播種を進めるのなら、播種地を自生地以外に限定し蘭玉ごと採取する事も、自生地の保護という観点から必要な措置だと思われる。
まず、種間交雑種に付いては、東洋蘭というカテゴリーに含むこと白体が問題で、仮に両親が東洋蘭であっても、東洋蘭界は評価すべきではないと考える。なぜなら洋蘭業者によって作出された、東洋蘭を使用した種間交雑種は既に多種類存在するし、交配が進めば東洋蘭か洋蘭かさえ判らなくなる。もし東洋蘭界が種間交雑種を容認するなら、種間交雑シンピジュームが出品されても、東洋蘭かどうかを判断する明解な根拠が無く、「東洋蘭かどうかは気分次第」という事になる。
同種交配種に付いては、「交配親を明記し交配種としての登録を促進する」、「交配種部門を設けて別審査を行う」事以外に、交配を進めている方を含めて納得を得られ宅答えは無いというのが実情であろう。ただし、交配親が自己申告である限り、危うさは払拭できない。
各地で寒蘭め山採りが規制されたので、今後は山蒔き交配種が「山採り物」として出回る事は無いと思われるが、既に九州では大量の(白己申告による交配種)が販売されている。これらが「山蒔き交配種」では無いという保証は無い。
一方、バイオ苗と呼ばれるフラスコ内に播種された「種間交雑種し、同じく「同種交配種」、メリクローンによる「栄養繁殖品種」、同じく「キメラ変異品種」に付いてはそれぞれ対応が異なる。
「種間交雑種」は先に述べた理由から、洋蘭のカテゴリーとして扱われるべきものである。開発理念においても開発方向においても、洋蘭と全く差異が無いからである。将来的には既に風蘭の一部に存在する「属間交配種」でさえも可能である。
「同種交配種」の場合、経済的な側面から見れば大量に発生する種子兄弟品種を吸収する市場は東洋蘭界には無い。洋蘭を例にとると、育種業者から花斉生産業者に販売される価格は]株数百円であり、十八ヶ月程度で開花株として花斉市場に出荷されるそうである。近年は大手生産業者が品種開発から生産までを一括する傾向が強く、品種開発過程で廃棄される予定のシンビジュームのバルブを利用し、養毛剤を開発した徳島県の河野メリクローンはあまりにも有名である。
「東洋蘭もクローン品種を初心者用の低価格商品として開発し、東洋蘭の趣味者を増やす事が可能ではないか。」という意見もある。既に人工交配種が生産されている事を考えると現実的な選択であり、交配新品種の供給も絶えないので趣味者も納得できる見解では有るが、開発者の意図するところではなく、将来を見据えた意見であるとは言い難い。
クローン技術による栄養繁殖品種の行方は、シンビジュームの消費動向がそれを示唆している。これらは観賞用の消耗品であり、大量に生産され大量に廃棄される。東洋蘭よりも市場価値が高いエビネでさえも]般消費は決して多くないのに、東洋蘭がそれ以上の市場を獲得できるとは考えられない。
東洋蘭には洋蘭のような花斉生産業者も一般消費者も無いので、一万円程度で直接趣味者に販売されているが、数万粒というオーダーで発芽する交配種を吸収する消費市場はどこにも無く、バックヤードには大量のデッドストックが存在する事になる。また、同一品種の再生産が可能であり、希少価値は皆無で値崩れは必至である。
「キメラ変異品種」に付いては、それ自体に高い観賞価値を認められるが、価格を決定するのは希少性と需要である。クローン培養の場合は生産者の意思によって生産本数が任意に決められるので、当初から生産過剰になる可能性が極めて高い。「緑雲の柄物」の場合は、初期生産本数は二百五十株だったそうだが、リゾームは保荏されているので、追加生産が行われたであろう事は容易に想像できる。
F 結論
入工交配に関する技術は古く、十九世紀のイギリスで既に行われていたそうである。この様な技術革新が求められる背景には必ず需要が存在するが、イギリスの場合は社交界であった。名誉と財を手にした入々が、麗入の胸元を飾るコサージュに、南米から輸入した蘭を求めて万金を投じたそうである。当然の帰結として、より美しい花をより安価に入手する事が求められ、入工交配と育種技術が確立した。
翻って我が東洋蘭界はどうであろうか。一部の生産者と東洋蘭業者を除いて、一般の趣味者にその様な欲求が存在するとは思えない。失うものが多い割に得るものが少ないのではないかとさえ思われる。
仮に趣味者からの欲求が有ったとしても、文化的背景を失い「天のなせる技」という呪三口も消えうせた「バイオ東洋蘭」(原種と区別するため、あえてそう呼ぶ)が高額で取引される事には全く必然性が無く、終には近代園芸に吸収され雲散霧消するのが、その予定された未来であろう。
入工交配はパンドラの箱である。一度開けたら元には戻せない。欲望と災いは背中合わせに同居しており、拡散した災いを閉じ込める方法は無い。既に自生地は汚染され、今後は発生する小苗が白生種なのかそれとも交配種なのかを見分ける事は不可能に近い。クローン技術によるキメラ変異個体が、その出自を隠して高額で販売されたのも、中国で急増した東洋蘭の需要を当て込んで、クローン技術による大量生産が某国において行われたのも事実である。
これらの問題を回避するための方法は既に無い。次善の策として「人工交配部門で別の価値基準により審査する」事以外にこれと言う妙案も無い。その場合、東洋蘭の歴史的文化的側面が大きく阻害される事を、甘んじて受け入れねばならない。以前、日本画の作家である友入に日本画と洋画はどこが違うのかと尋ねたことがある。答えは「絵の具が違うだけ」との事であった。戦前の作家を最後にして、日本画の精神は潰えたのである。結果は現在の日本画壇が雄弁に語っている。
一方で「洋蘭の一ジャンルでも良いではないか」という意見もあろうかと思うが、ドーム展を見た事のある方なら「華やかな洋蘭が主役で、東洋蘭は脇役」と思ったはずである。もし入工交配された東洋蘭が出品されれば、新たなカテゴリーを獲得できないばかりか、入工交配種の混入により従来の東洋蘭というカテゴリーさえ危うくする事にもなりかねない。今日、東洋蘭が世界蘭展などで評価されているのは、その全てが原種だからである。超大輪円弁で色鮮やかな洋蘭と同じカテゴリーで人工交配による東洋蘭を批評する事は、花斉園芸というマクロ的な視点からも、殆ど意味を持たないと思われる。
結果的に、趣味者は大量の人工交配新花を前にして購買意欲を失い、山採り品は実生の混入により信用を落し、天与の尊さも希少価値も、高額品ですらも無くなった東洋蘭に幻滅した趣味者は会を離れ、東洋蘭界は壊滅的な被害を受ける事になりそうである。或いは入工交配の肯定と否定の両派に分裂し、共に弱体化するのかも知れない。
ここでもう一度我々が考えるべき事は、既に持っているものと、未だ持たざるものは何かと言う、原初的な問いである。その視点から考えて「既存品種を原種という観点から再評価する」事以外に現状を維持する方法は無いと思われる。
幸い寒蘭界には四千種を超える各会登録品と、それをも凌駕する多数の未登録品が存在する。以前にある登録品を探した事があるが、登録者は既にこの世には無く、分譲された先も一件のみで、しかも分株できる状態ではないとの返答であった。少数の有名品種以外は概ねこの様な状態に有るのかも知れない。これらの不遇な品種を、単に「銘花に及ばない花」としてではなく、「原種の持つ変異幅の多様性」として脚光を当て、正しく再評価し、原種の保存を考える時が来たのではないかと思う。
次の機会があれば「寒蘭の原種としての意義」に付いて考えてみたいと思う。
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関西寒蘭会会誌編集部
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