発酵肥料の作り方について
渋谷 博
はじめに 私が肥料を作りはじめたのは、記録ノートをみると、昭和五十八年からである。最初は大先輩K先生から教わったもので、水がめの中へ油カス、骨粉、魚粉などを入れ、水をそそいで密閉する作り方であるが、数日後には強烈な悪臭がして、発酵ではなく腐敗したもので、処分するのに困ったことだった。
その後、肥料作りについて、いろんな資料を参考に学んだが、大量の材料を基準とした農作物用の肥料作りで、少量作には適せず、満足する肥料はできなかった。
暗中模索の末、資料を基にやっと肥料らしいものができはじめたのは、平成五年頃からである。
その作り方は、好気的分解による発酵肥料である。そこで、その資料「発酵菌活動の基本」を要約して記し、次いで私の肥料作りを紹介します。
一 肥料作りの時期と作場発酵の段階で、最初に活動をはじめるのが、こうじ菌である。こうじ菌の発育温度は、30℃から40℃、夏であるが、この時期は多くの細菌が繁殖旺盛で、逆にこうじ菌の活動を押え不良となる。即ち、酒作りと同じで、冬の低温期に作るのが最適なのである。
作場については、木造で土間のある納屋、南側に家屋があり、日当りがない作場が理想である。
私の作場は、残念なことに、トタン屋根の簡易倉庫である。幸い南側に二階建ての民家があり、日が当らないので良しと思っている。
二 発酵菌活動の基本(研究資料から)1 材料の種類と数量
①第一混合材料(水分30~40%)
米ぬか 200㎏
落葉 20㎏
コーラン 10㎏
②第二混合材料(水分50~60%)
菜種油かす 600㎏
魚粉 80㎏
骨粉 40㎏
カニガラ 20㎏
大豆かす 40㎏
なお、材料の混合撹拌及び堆積方法は後記のとおりで省略する。
2 こうじ菌の活動(第一発酵段階)
①材料堆積後、二~三日で発熱、中心部の温度が45℃に上昇すると、こうじ菌の活動がはじまる。
②50℃に上昇、こうじ菌の活動は鈍る。
③堆積後、二十五日前後で70℃に上昇、材料は糊化が進み、糖化作用がはじまる。
④材料の表面に綿毛状の菌(コロニー)が形成、この時期に散水撹拌、こうじ菌の香りが漂う。
3 納豆菌の活動(第二発酵段階)
⑤温度の低下がはじまりジ50℃を割るとタンパク質分解作用がはじまり、納豆菌が増殖、PHは中性からアルカリ性に移行する。
⑥二~三回撹拌、綿毛状の菌は消えアミノ酸の臭いがする。
4 乳酸菌の活動(第二発酵段階後期)
⑦温度の低下が進む、30℃~40℃になると乳酸菌の活動がはじまる。乳酸菌を添加し発行の促進を図る。
⑧内部はサラサラ感、撹拌を繰り返す。暗褐色、アミノ酸の臭いが強くなる。
⑨PHが低下、アルカリ性から酸性に移行、細菌は死滅し、雑菌の侵入を防ぐ。
5 酵母菌の活動(第三発酵段階)
⑩30℃以下になると酵母菌が発生、酵母菌、過石、山土、硫安を混合撹拌する。
⑪材料混合を機に、温度が再上昇しやすく、上昇すると第二段階に逆行するので、頻回撹拌する。
⑫温度が低下し常温近くになると、野球ボール大の白い菌の塊が見られ、撹拌二~三回すると乾燥し、白黒色まじりの発酵肥料が完成する。
[参考]
前記の肥料作りは、農作物用肥料として大量の材料を基準に示したものである。従って、少量の肥料作りの場合、発酵[口数も異なること、発酵に適さない材料もあることを認識しておくべきである。
三 私の肥料作り(平成十二年肥料作り記録から)
1 図と写真の説明
図示④=容器に材料を堆積した状態
写真①=肥料容器(プラスチック製・30追)、撹拌用スコップ、コモ
写真②=作業用容器と発酵補助剤
写真③=右上から稲ワラ、コモ、左上から落葉(けやき葉)、完成肥料、覆ネット
写真④=完成肥料(十二年製作)
2 作業準備
作業の前日に、大豆、落葉、カニガラを個々、別容器に水に浸し、翌朝ジューサーにかけ、液状にして個々に取り置く。
3 材料の種類と数量
①第一材料
米ぬか 1.5kg
落葉 若干
こうじ 100g
コーラン 100g
②第二材料
油かす 2㎏
骨粉 2㎏
大豆 200g
カニガラ 50g
③その他の材料 過石、黒土、熔燐(草木灰)、稲ワラ
4 肥料作りの容器(写真①参照)
30リットル容器(プラスチック製・つげもの用容器)
5 混合作業
①前記、第一材料を作業用容器(写真②参照)に入れ、ジョウロウで散水、スコップで撹拌、水分量は手で握ると固まり、手を開くとほぐれる程度とする。
これをビニールシートに移し、山積しておく。(第一混合物)
②前記と同様、第二材料を散水撹拌、第一材料より若干多い目の水分量とする。これを別シートに山積しておく。(第二混合物)
[参考]
肥料作りの一番の決め手は、水分量の加減にある。散水の方法は一回に多量の水を加えずに、少量を数回に分け、散水撹拌することである。
6 堆積作業(図示⑧)
①容器の底面に湿気のない油かす3㎝程を平らに敷く。
②その上に第二混合物四分のμを重ね、平らに敷く。
③その上、中央に第一混合物を山形に積む。
④第二混合物、残り四分の三を第一混合物の上に覆い、大福餅様に包む。
⑤その上に熔燐少量を、きなこ餅様に散布、さらに稲ワラで覆う。
⑥防虫ネットで容器を覆い紐で縛り、ネット上にコモを覆って倉庫に移し、作業が完了する。
7 発酵過程(記録ノートから抜粋)
1月6日 作業準備(前記2の作業)(外気温、朝2℃~昼10℃)
1月7日 材料混合堆積作業(前記5及び6の作業)
1月9日 容器に触ると熱気を感じる、発酵がはじまる。
1月15日 容器内の温度、かなり上昇(外気温、朝4℃~昼11℃)
1月20日 材料の中心部40℃に上昇、こうじ菌の活動がはじまったと思われる。
1月22日 60℃に上昇、コモ、ネット稲ワラが水滴でびっしょり濡れ水分多く、材料の表面は白く石灰状。高熱で乾燥気味、少し早いが、肥ヤケ防止を兼ね、散水撹拌する。
1月23日 一層高温となり、散水撹拌、まだ少し水滴が見られる、こうばしい香りが漂う。
1月25日 散水撹拌、温度下る。材料は褐色、原形は見られなくなる。
1月26日 酵母菌散布時期。材料にイースト菌2gと白糖7g混合水、黒土*刑9、*過石捌9を加え撹拌する。
1月27日 温度、再上昇気味。午前、午後に撹拌し、温度を下げる。
1月28日 右同じ。温度降下、水分なくなる。
1月29日 表面から内部にわたり白色、大小ボール状の玉が現れる。切り返し撹拌する。
1月30日 ゴマ塩状の発酵肥料が完成。中ノ上質肥料と現認。
四 材料の知識こうじ=発酵促進、糖化作用を助長
コウラン=1右同様、発酵促進剤
落葉=落葉の中に生息する微生物の活用、好気性
酵母=酵母菌活動を助長
発酵促進
熔燐=草木灰と同様、腐敗防止
黒土=土壌病害防止
稲ワラ=納豆菌の活動を促進
こも=むしろと同様、納豆菌の活動を促進
魚粉=腐敗しやすく、少量肥料作りには不適
硫安=熔燐と悪化学反応のおそれあり、使用しない
五 肥料作りの容器について(案)肥料作りの理想は、前記したとおり、納屋の土間に大量の材料を山積し、むしろを覆って作る方法が最適だが、通常、不可能なことである。
しかし、少量の肥料作りの参考資料はなく、家庭用の生ゴミ肥料(*脳菌)作り程度のものである。
そこで私の経験から、材料の数量に適応する容器を、次のように定めている。
その設定は、材料109を基準に、容器の底辺(直径)と高さ(深さ)の比を4対6とし、10㎏増すごとに反比例すると定めたものである。
即ち、材料の数量が多くなる程、容器の底幅を広く、高さは短くする。
その理由は、深い容器ほど酸素不足となり、腐敗する可能性が大である。
1 材料10㎏11底辺4対6高さ
2 材料20㎏11底辺5対5高さ
3 材料30㎏11底辺6対4高さ
なお、容器の材質は木製の桶が最適である。
おわりに長年にわたり肥料作りをしていても満足する肥料はできないものである。
私が肥料作りに真剣に取り組みはじめたのは、平成九年のことである。
その年の春、家内が草花に施す肥料が欲しいとのことで、私は草花用なら最低質の肥料で十分と判断し、家内には黙ってその肥料を与えたことだった。
それから数日後、見事な花が咲いたのである。丁度その頃、近所にも同種の花が咲いたので比較できたのだが、花は大輪、花色は濃くてよく冴え、素晴らしい花であった。
質の落ちた肥料と知らない家内は、私に大感謝で、近所の入達からほめられるやら、まさに花咲か婆さんとなり、鼻高々であった。
誰より驚いたのは私である。びっくり仰天し、改め発酵肥料の効果を認識したのである。
この年を機に、毎年肥料作りに励んだが、最近では、在庫もあり、それに加え気力も鈍ってきたのか、作る回数も少なくなってきたのだが……。
今年の本芽会で優勝された誰かさんのように、次は無肥料作りに挑戦したいと思う、今日この頃である。
なお、この記事は、原稿締切り間近になって急きょ仕上げたもので、省略箇所も多く、理解できないところもあると思われますが、そのところご容赦ください。
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